北鎌尾根 2002年12月27日~2003年1月1日

北鎌尾根 2002年12月27日~2003年1月1日
‥村上、伊東、米澤
日本におけるルートのなかで、北鎌尾根ほど数多くの人間ドラマと歴史を有したものはないだろう。槍ヶ岳山頂から一線に伸びたその稜線は最後のピーク手前で最高のフィナーレをもって終えることができる。

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■記録

■12月27日 曇→雪
14:30葛温泉ゲート→15:20七倉ダムゲート→17:00高瀬ダム→18:55名無小屋前
信濃大町からのタクシーは冬季ゲートが閉まっており葛温泉まで。ザックは1人約27、8キロ。長い林道を歩いてゆく。しばらくすると七倉ダムの対岸に唐沢岳東尾根が現れる。木村秀樹はいまの自分をどんな気持ちで見守ってくれているだろうか。あの事故から2年。3年前の北鎌夏季偵察時には確かにあいつはいた。もし生きていれば・・・間違えなくこの場にいたはずなのだ。木村の分もそして俺の仲間たちの分も俺は冬の北鎌で生き抜かなければならない。七倉ゲートにて最終登山届を投函。雪が散るなかヘッデン歩行で高瀬湖右岸を進む。林道から登山道に入るがトレースがあるから安心だ。19時まえに名無小屋に到着。中には6名が先に陣取っており入れそうにない。小屋前にテントを張る。村上さんの奥さん特製の味噌漬ステーキで夕食を済ませた後、小屋のなかの人の誘いで宴に混ざる。実はこの6名、早稲田の探検部OB&現役でNHKの番組の撮影のために入っているとのこと。酔いがかなり回っているせいか何を言っているかよく分からない人もいたがとにかく自分たちの成功を願っていてくれていたことは確かだ。23:30就寝。

■12月28日 晴→雪
8:20 CS→10:30水俣川出合→中東沢出会→15:50千天出合

朝から好天に恵まれる。湯俣が近づいてくると槍ヶ岳が姿を現す。青空に白い峰峰が輝き、朝の低いテンションを高めるには十分だ。水俣川出会からは1日前に先行パーティが入っているようでトレースがついている。トレースを追うように水俣川左岸を行く。雪が安定しており夏よりも歩きやすい。心配していた渡渉も丸太橋がかかっておりなんなく通過。中東沢出会を過ぎてからも飛び石で渡渉をこなす。結局、最後まで靴を脱いで渡渉することはなかった。

■12月29日 晴
7:30 CS→9:20P2取り付き→14:45P2の肩プラトー

千丈沢右岸を膝上ラッセル。昨晩の雪で先行パーティのトレースがほとんど消えている。1時間ちょっとほどラッセルしたところでP2尾根が見えてくる。上部はやはり急峻だ。渡渉は沢に飛び出している大石の上から先にザックを対岸に飛ばしたあと、ジャンプして乗り切る。徐々に高度を上げていくと風が出て、雪面もクラストしてくる。上部は木(の根)登り。樹林帯だが落ちたら助かりそうにない。P2の肩に出る前の20mは垂直に近い木登り&氷土&雪壁。先頭の伊東が空荷でロープを伸ばし、確保して登る。結局、この日はP2の肩止まり。風は強いが天候は素晴らしい。

■12月30日 晴→曇 夜雪
7:30 CS→10:30P3→12:30P5,6コル→13:50北鎌コル→15:20P8直下

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P2の頂上までは相変わらず木登りが多い。P3の登りは雪壁のラッセル。伊東と米澤で先頭をこなす。さすが現役の米澤は早い!P3も上部までくると樹林帯を抜け岩稜となる。P3ピーク付近で大休止。毛手をしないでも耐えられる暖かさと好展望にしばしマッタリムード。P4のなだらかなピークを過ぎるとP5手前の岩峰を天上沢側の雪壁から巻く。P5と勘違いしていたため伊東の判断ですぐに巻いてしまったが、実は直上出来たのかもしれない。次にでてきたのは本当のP5岩峰。どう見ても直上できそうにない。天上沢側の雪壁を再度、巻く。雪質はいたって良好。非常にしまっているが、先頭の伊東は恐々進む。正直、言って俺は雪が好きじゃない。いくら締まっていたって怖いもんは怖い。だいたい60度、70度の斜面に雪が乗っかっていること自体信じられないんだからしょうがない。高所恐怖症の人が鉄の飛行機が飛んでることが信じられないと言っているのと同じかもしれない。P5、6のコルに出たところで後ろから2パーティ抜いていった。29日に入山したとのこと。ラッセルの礼をちゃんと言っていったから良しとする。P6は千丈沢巻き。凹状雪面のトラバースとボロイ土岩の登り。伊東の判断で1ピッチロープを出して通過。どれがP7か分からない岩峰を3つほど越えて、急な下りの雪面をクライムダウン含めて下っていくと北鎌のコルに到着。先行の2パーティがトレースしてくれているから楽勝だ。コルは夏に来たときはテント1張りほどの広さのハエの飛ぶ醜いサイトだったが、今は多少、雪庇がでているものの5張りは張れそうな状況だ。後から来たパーティより明日から天気が崩れるとの情報を得ていたので少しでも進んでおこうということになる。P8までは400mの登り。単調な登りなので元気な米澤先頭で行かせる。村上さん、ややバテ気味。ヘッデン歩行で独標基部までP9の岩峰を無理に行く必要はないとの判断でP8直下の両側の切れ落ちた尾根上を掘り下げてテントサイトとする。

■12月31日 曇→吹雪
7:20 CS→8:00独標基部→11:10独標ピーク→15:55北鎌平

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朝から雲行きが怪しい。明日から天気がどうなるか分からないので、出来たら今日のうちに槍を越えたいところ。P8から3つほどのP9の岩峰を越えて独標基部へ。先行パーティは独標基部から急な雪面を右へ100mほどトラバースしてから取り付いている模様。雪が安定しトレースがあること、そのルートが最も登りやすいとの情報からトラバースを始める。途中から急になるためロープを出す。村上さんにトップをやってもらい、フィックスを張る。独標登攀1Pは伊東リード。傾斜も緩いミックスで大したことはない。気がつくと吹雪になっているが風はまだたいしたことはない。2P村上さんリード。岩は硬いが乗り越すところでランナーがとれないため怖かったとのこと。3P、ぼろぼろの凹状を伊東リード。ノープロのため時間を食う。少し登り詰めると独標ピーク。鋸の歯のような北鎌尾根がガスに隠れ天まで届いていそうな槍の穂先まで続いている。先行パーティのトレースを辿っていけばいいわけだが時折、消えていく。ガレのクライムダウンなどは夏の悪さと同様だ。ルーファイに伊東が疲れたので村上さんに代わってもらう。P13あたり?で千丈沢側を大きく巻く。ちょっとでもバランスを崩せば、夏まで発見されないであろう遺体に早変わりするのであろう。ゆっくり慎重に・・・。そのうちに麻痺してくる感覚が恐ろしい。崩れそうな薄い雪壁のトラバースをノーロープで米澤に平気でさせている。稜線に戻りP14あたり?で懸垂下降20m。風がかなり強くなり足の指の感覚がややなくなりかけている。再び、千丈沢側を大きく巻き上がったところが北鎌平。すでに16時まえ。槍越えはあきらめて3方をブロックで囲み幕営。他に2パーティがテントを張り、ちょっとしたテント村状態。大晦日なんだからしょ~がない。

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■1月1日 快晴→晴
7:20 CS→9:20槍ヶ岳頂上→10:30槍の肩→14:30新穂高温泉

朝より快晴。雲海より登ってくる初日の出を最高の展望台より拝んでから出発。天気はいいが気温はマイナス27,8度。槍の穂先に向かって登っていても手足の指先からの感覚がなかなか戻らない。頂上直下の大槍チムニーのみ伊東リードでロープを出して通過。雪が詰まっており大したことはない。夏の方が難しかった。9:20、6日目にしてようやく槍ヶ岳に到達。日も上がり暖かい。西澤監督に登頂の連絡。槍の肩からの下りは飛騨沢についたトレースをぶっとばして4時間後には新穂高温泉のターミナルに到着。足早に平湯までタクシーを飛ばし、一風呂浴びて、高速バスに乗り込み夜にはそれぞれ自宅に戻った。

山行を終えて
(文責:いとー)

p2001
P2取り付き前の渡渉点。本来ならば少し下流から渡渉できるようだが見逃してしまい、必殺「ジャンプ」での渡渉となる。高低差約2mほどをザックを投げてから飛び降りた。万が一ジャンプに失敗してずぶ濡れになるくらいだったら、飛び石してちょっと足がぬれた。程度にしておけばよかったけど、槍に向けて気持ちが高ぶっていたのでしょう(多分。)余計なチャレンジをしてしまいました。。。

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■山行を終えて

■伊東
今回の北鎌はあまりにも順調であった。山行中に通過した低気圧ゼロ、極緩い冬型が現れたのみ、雪は多いとの前評判だったが、逆に雪質は締まっていて安定の極みに達していた。寒気と多少のラッセルを除けばゴールデンウィーク並みと評してもいいのではないかと思えるほどの好条件であった。いい条件で登れたのは確かに嬉しい。しかし立っていられないほどの風雪のビバークは、雪崩に恐れおののく雪面のトラバースは、どこを歩けば良いか悩み、悩む余裕もないほど厳しい条件の稜線は私にとっては憧れと幻想に終わってしまったことも事実だ。もちろんそのような状況の中で適切な判断がとれたか、そんな実力があるのかは分からない。しかし私にとっての憧れの北鎌尾根は今のところは憧れのままに残ることになるようだ。それもまたいいと思う。今回の経験は次回に生かし、再び可能な限り冬山と向き合ってゆきたい。少しでも憧れに近づいていけるのではないかと思う。
先頭で判断の多くを私に任せて下さり、後ろから米澤を看ていてくださった村上さん、ラッセル等体力面で少なからず助けてもらい、私の怒鳴り声に堪えてくれた2年の米澤には感謝しております。また西澤監督には多くのご心配をおかけしたにも関わらず、準備の段階から多くの私のわがままと無礼をどうかお許しください。3年前の夏合宿で偵察山行を一緒に行なった尾本、中尾には感謝と申し訳ない気持ちでいっぱいです。また遭難対策等で多くのお心使いをくださったOB方には心からお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

■村上
学生の時から一度は行ってみたかった北鎌尾根。まずは夏にトレースしてからなんておもってはいたがいきなり厳冬期でのチャレンジとなってしまった。近年山にいくことが減っているなか、明確な目的をもって事前に行ったトレーニングは肉体的な部分での調整というよりも精神的な面での調整が大きかった。だって、体力なんて学生のときからなかったし、、、パートナーはガッツの伊東と要領のよい米澤。凸凹トリオでの山行ではあったがもしかしたらバランスが取れていたのかもしれない。何より楽しい山行だった。
天気には過去最高と思わせるくらい恵まれ最高の登攀を楽しめた。やっぱ冬の北鎌は最高だ。夏にも着てみたい。
ただ、身の危険を感じたときにでるアドレナリンの気持ちよさを今回求めていたら欲求不満になっていただろう。山からすこしはなれていたためアドレナリン中毒がなおってきつつあったのかもしれない。また中毒になるきっかけを作ってしまった。どうしよう・・・。最近アルコール中毒っぽいのに・・・・
入山前には沢山のOBの方々が我々の山行を気にかけていてくれた。普段会ってもいない後輩のために励ましのメールやアドバイス沢山いただいた。これには感謝の念が絶えない。歳がいくらはなれてたって仲間ってことなんだな。いとー、ヨネそして監督・OBの皆さん、ありがとうございました。また世話になります。。

 

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