初登頂日からずっとブログの更新が途切れていたこと、
その裏側には登山隊の大変な苦労がありましたことを報告します。
<ロナークへ下山しました>
10月15日、19時30分。雪に閉ざされたブロークン氷河を脱出して、全員無事にトレッキングコースからの起点であるロナークに下山することができました。
登頂成功の翌日、意気揚々とベースキャンプに下山した我々を待っていたのは「最後の試練」、季節はずれの豪雪でした。その日の夜から降り出した雪に、「雪の前の最高のタイミングで登ることができてよかったね〜」くらいの楽観的な見方をしていた我々は、翌日も、そして翌々日も止むことを知らない雪に少々焦り始めました。ここ、BCはまだしも、下降するブロークン氷河の出口付近には困難な岩場が待ち受け、その手前のトラバースなどを考えると、とても行動することは不可能だからです。
もともと岩と枯草で覆われていたBC周辺は、降雪初日で真っ白に(写真参照)。翌日からは対岸の雪崩の音が鳴り響くなか、埋没したときのためにテントを切り裂くナイフをポケットに忍ばせてシュラフに潜り込んでいたような状況でした。
運悪く、雪山用の個人装備はポーターたちに下ろさせてしまい、スパッツやハーネス、ロープなどは手元に残っていません。さらに食糧・燃料も1日分しか用意がなく、コックのジャガティスも泣きそうな声で「バラサーブ、すみません…あと1日しか持ちません」などと曇った表情に…。ガイド経験の長いサーダーのツルさんも、これほどの悪天は予想できなかったようで、行動計画について、少し迷いが出ているようです。
ともあれ、隊長としての判断は、とにかく安全を第一に考えるしかありません。雪崩の危険を回避すること、現役部員(特に雪山経験の少ない真下・中西)の安全を最大限、確保すること。そのためには食い延ばしをしてでも好天を待ち、視界の回復を前提にした行動をすること、です。
いずれにしても長期戦を覚悟の上で、テントの除雪に励みながら3日間を過ごしました。幸い、日本の雪山で鍛えられた精神の賜物なのか、ただの鈍感なのか、誰ひとり悲壮感を感じさせることなく停滞の日々を過ごし(この点、今回の登山隊のチームワークは完璧でした)、15日11時に空が割れて青空が見えたことをきっかけにBCを出発。ネパール人スタッフの献身的なラッセルを先導にして、岩場では中西・真下にスリングを使った簡易ハーネスをつけさせて危険地帯を通過。無事にロナークへと戻り着くことができました。
ここには同じく豪雪に閉じ込められたトレッカーたちが避難していて、じつににぎやかな限りです。煙たいロッジの一角で他国のトレッカーたちと一緒にいると、ようやく本当に安全な場所に下りてきたという実感が湧いてきます。
「登山の終了は家の敷居をまたぐまで」と言われているものの、登山隊の全責任者である隊長としては、初登頂の成功とともに、全隊員を、とりあえず無事な場所に帰すことができたことを素直に喜びたいと思います。
(ロナークの雪原、晴天下のソーラーパネルの前にて 萩原浩司)
降雪前のBC。平和だった
雪が降りやまない…。完全に冬景色のBC
簡易ハーネスで最低限の安全確保
晴れ渡ったロナークの雪原